ドラマ・クロカイブ

AllAboutドラマガイドが書ききれなかったことをつづります。

脚本家とスタッフとの対立は『鳩子の海』でもあった

2020年春からの朝ドラ『エール』、脚本は当初発表では『コード・ブルー』などの林宏司でしたが、降板することが発表になりました。

 

www.dailyshincho.jp

他の記事では「演出担当スタッフとの対立」と書かれているものが多いのですが、リンク先の記事では『サラリーマンNEO』『あまちゃん』などの吉田照幸を名指し。10月に放送された近作『八つ墓村』にも共同脚本に名前を連ねていて、脚本を書けるのはまちがいありません。

ただ、人当たりがよくて対立するような人ではない、という別の報道もあります。

smart-flash.jp

こういう場合の責任はプロデューサのトップに求めるべきでしょう。その土屋勝裕制作統括、過去に大河ドラマ『花燃ゆ』も担当していました。『花燃ゆ』の脚本は1月スタート時点では『凪のお暇』の大島里美と『アシガール』の宮村優子との二人体制。5月から『中学聖日記』の金子ありさが加わり三人体制になって、9月以降は『天地人』の小松江里子が一人で書くととっかえひっかえ。最終的に4人が書くことになりこれは大河ドラマ史上最多です。


脚本家とNHK制作スタッフとの対立というと1974年『勝海舟』の倉本聰降板が有名です。もう一件、あまり知られていませんが、同じ年の朝ドラ『鳩子の海』でも起きていました。

脚本の林秀彦の著書「おテレビ様と日本人」によると、少女時代の原爆に対して結婚相手は東海村原子力研究所勤務、60年代安保も盛り込むなど反戦色が強く、また朝ドラヒロイン史上初の離婚などの内容に関して、激しく対立し降ろされそうになったとのこと。
鳩子の海』、斉藤こず恵が演じた少女時代は有名ですが、大人になってからについて語る人はあまりいません。こういう裏があったんですね。

 

http://blog.zige.jp/mackiee-drums/theme/17731.html

 

この件に関して、NHK側から書いているのは当時のドラマ担当部長・川口幹夫著「主役脇役湧かせ役」。
「この倉本さんの事件に端を発して『鳩子の海』の林秀彦さん、後述するが、制作側にかねてから厳しい批判をされてきた高橋玄洋さんなど、作者の側からのNHKへの抗議が相い継いだ」とあります。

ここからNHKドラマは脚本家をレスペクトする方向に変わり、土曜ドラマ山田太一シリーズ『男たちの旅路』や向田邦子シリーズ『阿修羅のごとく』といった脚本家の名前が冠されたドラマが放送されるに至りました。今回の件も、改善されるように動けばいいのですが。

『俺の話は長い』は山田太一ドラマを意識しているのか

日本テレビ系『俺の話は長い』。30分×2の構成がめずらしい、というウリでしたが、そんなめずらしい?と思っていました。

www.ntv.co.jp

プライムタイムの連ドラとして1回に複数話あるのは2003年『動物のお医者さん』という前例があります。深夜ドラマではよくあり、最近ではNHK『聖 おにいさん』。日本テレビだとくりぃむ上田主演の『天才バカボン』とか。
しかしよく考えると、これらはどれもコミック原作。一話完結作品をドラマ化する場合、一回複数話構成にする方がやりやすいということでしょうね。『俺の話は長い』は原作なしのオリジナル、めずらしいといっていいでしょう。

 

さて『俺の話は長い』、生田斗真演じる主人公が「ヘリクツを駆使するニート」ということで、なんかウザそうで、あまり見たいような雰囲気ではありませんでした。しかし実際見てみると、最もヘリクツが爆発するのは姉(小池栄子)との口げんかですが、ほどほどのところで終わってそこまでウザくはありません。
それに「ヘリクツを駆使する」は家族が会話をするのが嘘くさくなくなり、「ニート」は主に家の中でドラマが進行するのに便利です。現代においてホームドラマを無理なく展開するために考えられた設定だったんだと納得。

 

そしてみているうちに山田太一脚本ドラマを思い出しました。
例えば『男たちの旅路』の吉岡司令補(鶴田浩二)。警備会社を舞台に戦中世代と水谷豊、桃井かおりが演じた戦後世代が毎回対立します。
例えば『早春スケッチブック』の沢田竜彦(山崎努)。平凡を嫌う無頼のカメラマンで、「お前ら骨の髄までありきたりだ」と言い放ちます。
そんな常識とは違う考えを持つ、ウザいキャラクターを配置することで普通の考え方を疑い、問題を考えていく、というのが山田太一ドラマのよくあるパターンでした。

そういえば『俺の話は長い』の主人公の名前は岸辺満、山田太一ホームドラマの代表作『岸辺のアルバム』を意識してのネーミングじゃないでしょうか。『岸辺のアルバム』といえば多摩川堤防決壊、『俺の話は長い』初回放送日は台風19号上陸と重なりました。

ところで今夏公開の『天気の子』。「世界を変えた」結末に賛否両論ありましたが、最後まで見て頭に浮かんだのは『男たちの旅路』で最も有名なエピソード「車輪の一歩」。バリアフリーという言葉もない時代、外へ出ることをためらう脊髄損傷の青年に対しての吉岡司令補の「迷惑をかけてもいいじゃないか」を思い出しました。個人と社会の関係を考える上で味わい深い言葉です。

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ほとんど総集編のような特別編を二作連続でする?

好評のうちに最終回を迎えた『監察医 朝顔』。しかし最終回の翌週放送された「特別編」がほとんど総集編だったことでガッカリされています。

www.cyzowoman.com

同じ枠の前作『ラジエーションハウス』も同じくほとんど総集編のような特別編を放送していました。日本テレビドラマが最終回に「続きはhuluで」とやって批判されるのと並び、フジテレビがやりがちなことという印象です。

過去の事例を調べてみました。特別編と銘打ちながら、ほとんど総集編で、最終回の次の週の放送されるものを。最終回の次の週じゃない場合は、だいたい新シリーズか映画の宣伝目的(最近の事例では2018年の『コード・ブルー特別編SP』)なので存在意義は理解できます。

作品 制作
2003 白い巨塔 特別編「はじめての告知」 フジ
2004 世界の中心で、愛をさけぶ特別編〜17年目の卒業 TBS
2005 救命病棟24時 アナザーストーリー フジ
2008 ラスト・フレンズスペシャルアンコール特別編
もうひとつのラスト・フレンズ
フジ
2010 JOKERジョーカー〜許されざる捜査官 特別編
「伊達、最初の事件」
フジ
2019 ラジエーションハウス特別編〜旅立ち〜 フジ
2019 監察医 朝顔 特別編〜夏の終わり、そして〜 フジ

全部拾い出せたかどうかはわかりませんがわかる範囲でいうとたしかにフジテレビが多い。そしてもっとたくさんあるかと思っていたけど、予想外に少ない。評判が悪いのであまり多用できないんですかね。それを二作連続とは。


ドラマじゃないけど、今年同じような事例としては7月5日の『ぴったんこカン・カン』3時間スペシャル。「安住アナから重大な発表が」と事前告知。結婚かそれとも退社か?と思わせつつ3時間の最後に『TBS東京オリンピック2020』の総合司会に就任というオチ。
安住アナ本人がラジオ番組で「『そういうやり方はやめた方がいい』って、制作とは話し合いを重ねたんですけども」「『最近はそういうやり方をすると、非常に信頼を失うことになるから、長い目で見ると得策じゃない』とは言ったんですけども」と批判しています。


放送局の信用、ということで思い出す個人的なエピソード。2013年『お試めしかっ!』内の企画として「帰れま10」をやっていたとき。ある日、新聞のテレビ欄を見ると『お試めしかっ!』のところに「今夜ついに達成」とある。
「ついに達成というと、帰れま10初のパーフェクトだろう。いや待てよ、ヒッカケで全然違うんじゃないのか?」しばし考えて「日テレTBSフジだと疑わしい。しかしテレ朝テレ東は信用していいんじゃないか」
信じて見ると正解、たしかにパーフェクト達成でした。

大草原の小さな家とソラとローラと十津川警部

なつぞら』の中盤、『神をつかんだ少年クリフ』を制作しているあたりで「このペースで行くと最後に制作するのは『ハイジ』がモデルで、牧場で育った奥原なつを重ね合わせた作品か」と予想できました、
アニメ化されてない適当な原作はあるか考えてみたけど思いつかず。蓋を開けてみると原作は有名な海外ドラマ版がBSプレミアムで絶賛再放送中の『大草原の小さな家』。

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ちょっと待てよ、『大草原の小さな家』は『草原の少女ローラ』としてアニメ化、それも日本アニメーションの制作だけどいいのか?と思ったけど、フジ系の世界名作劇場のラインでなくTBS系だからかまわないということか。
『ハイジ』が1974年で『ローラ』が1975年10月スタート。「『ハイジ』みたいな作品がほしい」というリクエストがあって『ローラ』が制作されたと想像できるので、そういう意味でも『大草原の少女ソラ』に近い。
ちなみに『大草原の小さな家』はアメリカで放送されたのは1974年、日本では1975年7月から。アメリカでヒットしたのが伝わって、NHKでも放送するという情報から企画されたんでしょうか。

なつぞら』劇中アニメの『ソラ』を見ていると、新天地を目指した理由が洪水。これを見てふと思い出したのが『新十津川物語』。明治22年和歌山県十津川村を襲った水害のため、住民が北海道に集団移住しできたのが現在の新十津川町。その開拓史をもとにした川村たかし作の児童小説で1977〜1988年にかけて10作書かれた大作。タイミング的に『大草原の小さな家』にインスパイアされたんでしょうか。『大草原の小さな家』は洪水で始まったわけではありませんが全体の内容として。

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さらにそれをNHKが1991〜1992年に90分×6話でドラマ化。主演は現代パートと明治編・斉藤由貴、大正編・若村麻由美、昭和編・富田靖子と力が入った作品でした。ただ、当時はNHKドラマ低迷期だったため盛り上がらなかった印象があります。
1991年のヒットドラマというと『東京ラブストーリー』と『101回目のプロポーズ』でNHK的なドラマは流行らなかった。それにNHK内部も政治記者出身でNHKをCNNみたいにしようとしていた報道重視の島桂次15代会長から紅白歌合戦を国民的番組に育て、管理職としてはドラマ部担当部長だった芸能畑の川口幹夫16代会長に変わった年でごたついていたということもありました。
あまりない、北海道開拓を真正面から扱ったドラマだけに残念でした。

ちなみに「十津川警部」は十津川村でも新十津川町でもなく東京の新興住宅地の出身。西村京太郎が十津川村の地名を地図でみつけて気に入ったそうです。

朝ドラの歴史:まとめ

「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」という本があります。著者は朝ドラの戦略を聞くべくNHKを取材するが、朝ドラ専門の部署がないことにビックリします(この間まではドラマ番組部はあったけど、2019年6月の組織改編でそれもなくなった)。

 

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長期戦略を考えているわけではないけど、個別の作品担当者が考えてつくっていくと、社会の動きや過去のヒット作に影響されながら、大きな流れができているのがおもしろいところ。
そんな流れを一通り見てきたところで、全体をまとめてみます。

 

最初期は家族をテーマにした作品が3作。4作目『うず潮』(1964)が新人女優主演、女の一代記パターンのプロトタイプ。それを踏襲した『おはなはん』(1966)が大ヒットするも、それで一代記パターンが定着するかというとそうでもない。続く『旅路』(1967)は夫婦ものでこちらも大ヒット、まだまだ模索が続きます。

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『あしたこそ』(1968)からカラー化。連続テレビ小説歴代視聴率ランキングは1位はもちろん『おしん』として2位『繭子ひとり』(1971)、3位『愛より青く』(1972)、4位『鳩子の海』(1974)、5位『北の家族』(1973)とこの時期の作品が並ぶ一つのピークです。

 

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ヒット続きの裏では制作がたいへんになったため半年放送スタイルに。
雲のじゅうたん』(1976上)は、夢が大正時代では壮大だった女性飛行士。一代記パターンに職業路線が加わり、またヒロイン真琴(浅茅陽子)は猪突猛進の超前向き性格。
一代記・職業もの・ヒロイン前向きの三要素がこの時期量産され、朝ドラの基本イメージが確立します。

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朝ドラだけでなく全連続ドラマ中最高視聴率の『おしん』(1983)。いわゆる「戦後」とバブル期へ向かう時代の変わり目だった1983年という時代が生んだのでしょうか。

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頂点を極めてしまったので変わらなくてはいけない。男性主人公など試すけど決定的なものは出てきません。

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時はバブル期、民放の連ドラはトレンディドラマに。時代の動きを反映して出てきたのが現代ものの『青春家族』(1989)。しかし反動的な流れもありなかなか変われず、視聴率も大きく低下してしまいました。

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1996年『ひまわり』『ふたりっ子』の連続ヒットでようやく現代路線が定着。さらに『ふたりっ子』は離婚、2000年の『私の青空』シングルマザーと『オードリー』はアラフィフまで独身のままと「一人で生きていく」ヒロインが主流になるかと思われました。

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しかし『ちゅらさん』(2001)でやっぱり家族が大事だともとに戻る。『ちゅらさん』は朝ドラヒロインのパターンを自覚するなど大きな転換点になりました。
その引き換えとして現代の女性の問題から離れていく傾向が。

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長期低落傾向をなんとかしようとする動きが始まりました。すぐには効果はないものの『ちりとてちん』はその後に影響を与える作品でした。

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本放送開始時間を8時に変更するとともにテコ入れしついにV字回復。現在に至ります。

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朝ドラ2010〜:V字回復した理由は開始時間変更だけじゃない

四半世紀近く視聴率の長期低落が続き、2008年10月に「朝ドラのあり方を見直す」と発表があり、2010年1月にその結果が発表されました。「NHK総合本放送開始時間を8時15分から8時に繰り上げる」と。「主婦が家事をしている時間帯など、いくつかのデータを基に放送時間を決めた」とのこと。

 

当時は1年ぐらい検討してそれだけ?と個人的に思いましたが、それだけではなかった。

まず時間変更を広めるための告知する必要があり、NHKの番組中だけでなく雑誌、ネットや民放のワイドショーでも取り上げられることが多くなりました。そのためにプロモーションの予算は増えているでしょう。

さらに主演を新人ではなく実績のある俳優であることが多くなり、また時代設定が現代よりも明治・大正・昭和の戦争前後が増えました。2つとも制作費が上がる原因になるので、たぶんその予算も上がっているでしょう。

ドラマの内容もレベルが上って、朝ドラ史上屈指の名作が争うようにでてきます。

 

V字回復の原因はそういったことが複合してですが、なかでも大きかったのは一代記パターンを基本にしたことでしょう。東日本大震災をはじめ大災害相次ぐ現代を、関東大震災や太平洋戦争の形を借りて描くことができました。

 

このあたりのことは記憶にあたらしく、歴史というにはまだ現在進行形。2010年以降最高視聴率で100作記念視聴者人気投票一位の『あさが来た』でとりあえず終わって、これ以降はまた次の転換期が来てからにしましょう。

 

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朝ドラ2006〜2009:長期低落傾向脱出へ種まき

2006年はNHK放送開始70周年だからか長期低落を続ける朝ドラをなんとかしようということなのか例年とちょっと違う。東京制作の上期『純情きらり』と大阪制作の下期『芋たこなんきん』を二作同時発表。

どちらもひさびさに主演オーディションでない起用で、放送開始時20歳ながら映画出演多数で将来を期待されていた宮崎あおいと、実績十分で当時のNHK大阪としては最後の切り札的存在だった藤山直美

さらに1999年の『すずらん』以来の太平洋戦争を含む時代背景。

 

純情きらり』は期待通りにヒットしましたが、『芋たこなんきん』は内容は評価されたおものの視聴率的にはイマイチ。朝ドラヒロインとしては年齢が高すぎることと、大人になったヒロインが折に触れて少女時代や女学生時代を回想する構成がなじみにくかったのでしょうか。

 

翌年も上期東京制作と下期大阪制作は似たような傾向で、ベタな『どんど晴れ』は視聴率がよかったけど、『ちりとてちん』は内容の評価は高くDVDは売れたものの視聴率は伸び悩み。よく見てないとおもしろさがわからず時計代わりに見にくいのが原因。見返すことができるNHKオンデマンドはサービス開始前、みんなで共有できるSNSの普及もまだでした。

 

ただ『ちりとてちん』、その後の朝ドラへの影響は大きいものがあります。

過去と現在が複雑にからみあう構成は『あまちゃん』。「研いで出てくるのは塗り重ねたもんだけ」など、落語・若狭塗箸という職業とテーマが響きあうのは『カーネーション』『ごちそうさん』。

ちゅらさん』のヒロインパターンの自覚化をうけてこれまでの前向きなヒロインをひっくり返したネガティブキャラは『ゲゲゲの女房』『あまちゃん』など。

最終的には落語家ではなく落語家のおかみさんになりたいとなり、人を支えるヒロインは『ゲゲゲの女房』『ごちそうさん』『マッサン』など。

ちりとてちん』がなければ、2010年以降の朝ドラ復活もうまくいったかどうか、という重要な作品です。

 

この時期、勢いがよかったのはここまで。以後2年4作で長期低落傾向も極まり、ついに朝ドラのあり方が見直されます。

 

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