ドラマ・クロカイブ

AllAboutドラマガイドが書ききれなかったことをつづります。

『俺の話は長い』は山田太一ドラマを意識しているのか

日本テレビ系『俺の話は長い』。30分×2の構成がめずらしい、というウリでしたが、そんなめずらしい?と思っていました。

www.ntv.co.jp

プライムタイムの連ドラとして1回に複数話あるのは2003年『動物のお医者さん』という前例があります。深夜ドラマではよくあり、最近ではNHK『聖 おにいさん』。日本テレビだとくりぃむ上田主演の『天才バカボン』とか。
しかしよく考えると、これらはどれもコミック原作。一話完結作品をドラマ化する場合、一回複数話構成にする方がやりやすいということでしょうね。『俺の話は長い』は原作なしのオリジナル、めずらしいといっていいでしょう。

 

さて『俺の話は長い』、生田斗真演じる主人公が「ヘリクツを駆使するニート」ということで、なんかウザそうで、あまり見たいような雰囲気ではありませんでした。しかし実際見てみると、最もヘリクツが爆発するのは姉(小池栄子)との口げんかですが、ほどほどのところで終わってそこまでウザくはありません。
それに「ヘリクツを駆使する」は家族が会話をするのが嘘くさくなくなり、「ニート」は主に家の中でドラマが進行するのに便利です。現代においてホームドラマを無理なく展開するために考えられた設定だったんだと納得。

 

そしてみているうちに山田太一脚本ドラマを思い出しました。
例えば『男たちの旅路』の吉岡司令補(鶴田浩二)。警備会社を舞台に戦中世代と水谷豊、桃井かおりが演じた戦後世代が毎回対立します。
例えば『早春スケッチブック』の沢田竜彦(山崎努)。平凡を嫌う無頼のカメラマンで、「お前ら骨の髄までありきたりだ」と言い放ちます。
そんな常識とは違う考えを持つ、ウザいキャラクターを配置することで普通の考え方を疑い、問題を考えていく、というのが山田太一ドラマのよくあるパターンでした。

そういえば『俺の話は長い』の主人公の名前は岸辺満、山田太一ホームドラマの代表作『岸辺のアルバム』を意識してのネーミングじゃないでしょうか。『岸辺のアルバム』といえば多摩川堤防決壊、『俺の話は長い』初回放送日は台風19号上陸と重なりました。

ところで今夏公開の『天気の子』。「世界を変えた」結末に賛否両論ありましたが、最後まで見て頭に浮かんだのは『男たちの旅路』で最も有名なエピソード「車輪の一歩」。バリアフリーという言葉もない時代、外へ出ることをためらう脊髄損傷の青年に対しての吉岡司令補の「迷惑をかけてもいいじゃないか」を思い出しました。個人と社会の関係を考える上で味わい深い言葉です。

[http://