ドラマ・クロカイブ

AllAboutドラマガイドが書ききれなかったことをつづります。

岡田准一版は愛と野望の人間喜劇『白い巨塔』

テレビ朝日系の『白い巨塔』。5夜連続で視聴率は順に12.5、11.8、12.2、13.5、15.2%。尻上がりに上げて、その週の視聴率三冠を日本テレビから奪取した原動力として評価されました。その一方で、休止した『特捜9』と『緊急取調室』のいつもの視聴率にはやや及ばずで賛否が分かれています。
評価しない方の意見はだいたい「田宮二郎版、唐沢寿明版と比べてライトだ」というもの。

 

岡田准一版を象徴するセリフが第二夜の終盤にありました。教授選決選投票の前に医局員の行動が問題になり形勢不利となった時。花森ケイ子(沢尻エリカ)が教授選のことを「残酷で滑稽なただの人間喜劇よ」といい放ち、弱気になっていた財前は奮起し逆転します。

「人間喜劇」フランスの文豪バルザックが自分の小説すべてに共通するタイトルとして名付けた言葉ですが、当事者にはシリアスな状況でも引いて見ると喜劇だということでしょう。今回の『白い巨塔』は全編、人間喜劇という観点でつくられていたと思います。
その方向性をつくったのはおそらくメイン演出の鶴橋康夫監督。映画の前作『のみとり侍』は「愛と笑いの痛快人間喜劇」、前々作『後妻業の女』は「愛とお金の人間喜劇」という惹句でした。

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また教授会の、あの重厚さを出せる俳優も今はほとんどいません。田宮二郎版での東教授役の中村伸郎、鵜飼教授役の小沢栄太郎、大河内教授役の加藤嘉、船尾教授役の佐分利信あたりは再現不可能。唐沢寿明版時点でもあまりいませんでしたが、品川徹山田明郷といったそれまでテレビドラマではあまりみなかった俳優を発掘してなんとかしたという感じですね。現在の俳優は演技経験はともかく、戦争をくぐり抜けてきた人生経験の面で到達できないところがあります。

そもそも重厚路線はフジテレビの作品だから、テレビ朝日で同じようなことはたぶんやりたくなかった。

だから教授選メインの前半は「ライト」批判が強く視聴率ももう一歩で、裁判から死に至る後半に視聴率を上げてきたのでしょう。

 おしむらくは脚本。テレビドラマでは脚本の重要性が映画より高い。鶴橋康夫がテレビドラマを作っていたとき、多く組んだ脚本家というと野沢尚池端俊策の二人。しかし野沢尚自死してすでに亡く、テレビドラマでの近作『松本清張〜坂道の家』でも組んだ池端俊策は来年の大河ドラマ麒麟が来る』を控えて忙しい。このあたりが脚本だったらもっと良かったんじゃないかと。

 全体に評価が上がったのは沢尻エリカ。「別に」騒動からの復帰作、TBS系『悪女について』は鶴橋・池端組でした。鶴橋監督、昔から女優をきれいにとることの評価が高いんですよね。

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