ドラマ・クロカイブ

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やすらぎの刻・いだてん 多重構造ドラマは評価は高いが視聴率は低い

朝ドラ『なつぞら』は好調で大河ドラマ『いだてん』と日本テレビ『あなたの番です』は不振と半年〜1年と放送期間が長いドラマの明暗が分れています。

しかしみなさん、もうひとつ放送期間が長いドラマを忘れていませんか。テレビ朝日系帯ドラマ劇場『やすらぎの刻〜道』です。前作『やすらぎの郷』はヒットしたので放送前には話題になりました。第1話視聴率は6.7%であることはわかっていますが、その後どうなっているのか、いくら探しても見つかりません。たぶんパッとした数字じゃないので公表されてないのでしょう。

www.tv-asahi.co.jpさて『いだてん』と『やすらぎの刻』には共通点があります。構成が多重構造になっていることです。『いだてん』はビートたけし演じる古今亭志ん生金栗四三(中村勘九郎)について語りつつ、若い頃の自分(森山未來)も回想。かつ語っている時点のリアルタイムでは、志ん生が知らないところでもう一人の主人公・田畑政治(阿部サダヲ)が東京オリンピックの準備をしています。


『やすらぎの刻』も菊村栄(石坂浩二)が「やすらぎの郷」の新入居者、水沼六郎(橋爪功)から聞いたはなしとかつて没になった企画を結びつけて実現の見通しはないけど新たな脚本をつくり、それを『道』として映像化するという二重構造。

 

登場人物の回想であるとか、俳優として劇中劇をするというならともかく(『なつぞら』は両方やってる)、それ以上に複雑な構造にすると、わかる人には評価が高くなるけど、大多数はついていけなくて低視聴率になりがちです。

 

その本家的作品が『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)。
借金取り(西田敏行)と借金に苦しむ人々が、返済のため大衆演劇の一座を組み、最後はサラ金のオーナーであるヤクザの親分に復讐するストーリー。
もちろん劇中劇としての大衆演劇は演じられることもありますが、その回のエピソードともリンクしてイメージとして大衆演劇の演目がでてくることもある、市川森一脚本らしい夢と現実の狭間を描いた大人のファンタジー的作品。
これが放送当時から絶賛され第一回向田邦子賞をはじめ受賞多数。しかし視聴率はヒトケタ。いまじゃヒトケタのドラマも多いですが当時人気だったTBS金曜ドラマでは異例の低視聴率でした。

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時代はとんで宮藤官九郎脚本の『タイガー&ドラゴン』(2005)。古典大衆芸能(大衆演劇と落語)、借金、西田敏行の三題噺で同じTBS金曜ドラマの放送と『淋しいのはお前だけじゃない』のオマージュ作。TBSのクドカン作品の多くがそうであるように名作だけど視聴率はパットしませんでした。

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同じく主人公が落語家をめざした朝ドラが『ちりとてちん』でこちらも落語のネタを登場人物が演じ、それがストーリー、テーマに密接に関わってきます。朝ドラ最低迷期だったので低視聴率でしたがDVDが売れたことで注目されました。放送開始時刻が8時になって復活した2010年以降の放送だとどうなっていたのか?

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ちりとてちん』と同じ藤本有紀脚本で向田邦子賞受賞作がNHK時代劇『ちかえもん』(2016)。スランプの近松門左衛門(松尾スズキ)が謎の男・万吉(青木崇高)と出会い、現実の事件を題材に『曽根崎心中』を書き上げる。ドラマ中で近松の作品が演じられることはもちろん、近松がなぜか昭和メロディの替え歌を歌い出すなど、変わった作品でした。脚本をつくる過程を描くということで『やすらぎの刻』に通じるものがあります。

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藤本有紀脚本だと大河『平清盛』も多重構造じゃないけど幻想的作風で低視聴率。『いだてん』の前の大河視聴率ワーストホルダーとして『いだてん』の低視聴率とともに話題になっています。『平清盛』放送時に前の視聴率ワースト作は『花の乱』でまた市川森一作品に戻ってきた。

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『やすらぎの刻〜道』も内容はいいとおもいますが、『道』部分があまりメジャーじゃない若手俳優主体でつくっているのが視聴率とれない要因でしょうね。出番が多い三平にいちゃん役の風間晋之介って誰?と思っていましたが、エベレスト、北極、南極などを走ったバイク冒険家・風間深志のジュニア。自身もダカールラリー完走経験もあり、今作から俳優活動を始めるということで、いかにも倉本聰好みの人選。

 

『道』も満蒙開拓団のはなしになりこれからが本番という雰囲気。内容的なライバルはBSプレミアムで再放送中の『おしん』でしょう。どうなるのか、期待しています。