NHKは『いだてん』をあきらめてない
2020年4月の新年度が近くなって、NHK BSプレミアムの大河ドラマと朝ドラ再放送情報がでてきました。
日曜朝6時からの大河ドラマ再放送は『太平記』。これは『麒麟がくる』と同じ池端俊策脚本つながりですね。「『太平記』で室町幕府の始まりを書いたから、次は室町幕府の終わりを書きたかった」といっています。
大河ドラマでは『太平記』でしか描かれていない南北朝時代。足利尊氏(真田広之)と足利直義(高嶋政伸)の兄弟が戦う「観応の擾乱」も、これまでなじみがありませんでしたが、新書がベストセラーになりました。
見返すのが楽しみです。
月〜土7:15からの朝ドラ再放送は『はね駒(こんま)』。
BSプレミアムでの朝ドラ再放送は『さくら』以降のハイビジョン化された作品が中心で一昨年までの例外は『ちゅらさん』のみ。しかし朝ドラ100作記念『おしん』が話題になり、昔の作品もまだまだいけるということなのか引っ張り出されてきました。
『おしん』から現代ものに転換するきっかけになった『青春家族』までの間のヒット作というと『澪つくし』と『はね駒』。母親役の樹木希林人気もポイントでしょうか。父親役の小林稔侍、夫役の渡辺謙の二人はこの作品でブレイクしました。
そしてもう一つ『いだてん』も4月6日18:15から(初回は18時から)、毎週月〜水の変則で再放送されます。東京オリンピックを見据えてNHKもまだ『いだてん』をまだあきらめていないんですね。
ああいうややこしい構造の作品は昔から視聴率はとりにくいんですよ。代表的なのは1983年TBSの『淋しいのはお前だけじゃない』。大衆演劇一座が舞台、ドラマのストーリーと劇中劇がからみあう複雑な構造で、一部には絶賛されたけど視聴率的にはさっぱりでした。その後、好きな人が名作と言い続け、CSで放送される時代になって知られるようになりました。
宮藤官九郎脚本作品『タイガー&ドラゴン』は大衆芸能(大衆演劇と落語)、借金、西田敏行の三要素が共通していて、クドカンも好きだけど「マネはしてないです」といっています。
何回か再放送すれば、そのうち風向きが変わるような気がしますが、東京オリンピックが終わってしまうとどうなるでしょうか。
やっぱりドラマの勢いで結婚してはいけない
東出昌大が唐田えりかと不倫で杏と別居の話題が芸能ニュースを賑わせています。
ドラマで共演した俳優同士の結婚については、『北の国から 2002遺言』の吉岡秀隆・内田有紀が離婚したときに書いたことがあります。
共演すると濃い人間関係となるけど、撮影が終わると会う理由がなくなってしまう。さらに作品中で恋人役だと疑似恋愛になってしまいます。それで判断を誤ってしまう人が多くなるんでしょうね。
ドラマの恋愛関係のまま結婚してしまうリスクというのも、今回あきらかになりました。今後『ごちそうさん』を見ると視聴者は不倫を思い出してしまいます。ヒット作を傷つけられて、NHKはカンカンでしょう。
今後、同じようなパターンで結婚しようとする俳優は反対される可能性が強くなりそうです。やっぱりドラマの勢いで結婚してはいけない。
さて東出昌大はテレビ朝日系『ケンジとケイジ』に桐谷健太とダブル主演中。第一話は12.0%と1月スタートの民放連ドラの中では『トップナイフ』に次ぐいい数字でしたが、不倫が報じられた直後の2話は9.7%と急落。
正直、第一話を見てもむりやりコメディにしようとしてスベっている感がありました。刑事と検事の立場の違いを描くのがテーマの作品だから、『踊る大捜査線』みたいに普通の演技しているのがおもしろい、というように描くべきではないかと。だから不倫がなくても視聴率は落ちていたと思います。やじ馬視聴者もいたでしょうから、3話はさらにダダ下がりと予想。
一方、唐田えりかが病棟クラーク役で出演の『病室で念仏を唱えないでください』は2話で出演シーンカット。こちらの第一話を見ての感想は、内容はいいけど登場人物多すぎ。それでもまだレギュラーキャスト表をみると泉谷しげると土村芳が出演していませんでした(2話から登場)。だから一人減って、見やすくなってます。
1話で伊藤英明演じる救急医で僧侶の主人公の相談相手として、掃除のおばちゃん役の宮崎美子の出番が多かったのに、2話では1シーンだけ。このあたりがカットされたのかもしれません。
新記録を狙えるか?三谷幸喜脚本『鎌倉殿の13人』
2022年の大河ドラマが三谷幸喜脚本、小栗旬主演で『鎌倉殿の13人』であることが発表になりました。発表日は1/8。普通はあまり大河ドラマの新作を発表しないような時期ですが、『麒麟が来る』の開始日が遅れて、大河ドラマを放送しない期間ができてしまったので入れてきたんでしょうか。
タイトルは鎌倉幕府幕府将軍(鎌倉殿)に仕える、二代執権の北条義時を中心にした13人の武士の意。三谷幸喜得意の会話劇になりそうな雰囲気。
北条義時はこれまで、あまりドラマの主人公になるような人物ではなく、一番目立った役だったのは1979年の大河『草燃える』で松平健が演じた時でしょう。姉の北条政子(岩下志麻)に「姉さん、そんなこといっちゃって」といったセリフをよくおぼえています。今なら時代劇で現代のことばづかいをするのはアリだけど、当時の大河ドラマでは物議を醸しました。
クライマックスになるのはたぶん承久の乱。昨年、承久の乱を扱った新書がベストセラーになり、本格的に武家政治が始まった重要な戦いであると認知が高まっているので、大河ドラマにするいいタイミングではあります。
三谷幸喜が大河ドラマの脚本を書くのは『新選組!』『真田丸』に続き3作目。
過去、大河ドラマのメイン脚本を最も多く担当したのは
の4作。
3作で続くのは三谷幸喜の他に
- 市川森一『黄金の日日』『山河燃ゆ』『花の乱』
- 橋田壽賀子『おんな太閤記』『いのち』『春日局』
- ジェームス三木『独眼竜政宗』『八代将軍吉宗』『葵 徳川三代』
- 田向正健『武田信玄』『信長 KING OF ZIPANGU』『徳川慶喜』
でいずれ劣らぬ名脚本家ぞろい。
『鎌倉殿の13人』放送開始時点で三谷幸喜は60歳。4作目は十分に狙える。5作目までいくか?
担当脚本家の高齢ラインはこれまで60代半ばというところでしたが、『麒麟が来る』の池端俊策が現在74歳と大幅に更新してきました。一年と長丁場の大河ドラマを安心して任せられるような脚本家が少なくなっており、また本人も大河ドラマファンを公言しているだけに可能性は強そうです。
近年なかった設定変更『おっさんずラブ-in the sky-』
手堅くヒットすることを期待され、近年は続編ものドラマが増えています。この秋のドラマでは12年ぶりの『時効警察はじめました』に13年ぶりの『まだ結婚できない男』と空白期間の長い続編があり、いつもより注目されました。
そんな続編ものの一つに『おっさんずラブ-in the sky-』がありました。デキは期待はずれだったようで失速。その理由はともかく、雑誌LDK12月号の連載「小田慶子のドラマ斜め読み!」が興味深い指摘をしています。
前作の舞台が不動産会社で今回はLCC格安航空会社のピーチ。続編でこんな変更をしたのは「1978年から放送された『熱中時代』で水谷豊さんが「教師編」「刑事編」の2パターンを演じたという事例以来」とのこと。
舞台設定となる職業が続編で変わるというのは昔はよくありました。最も有名なのは『ありがとう』の1〜3シリーズでしょう。水前寺清子・山岡久乃・石坂浩二など主要メンバーは変わらず、警察と保育園、病院、魚屋と八百屋など商店街と設定が変わりました。
いわれてみると80年代以降はなくなったイメージ。しかし完全になくなったわけでもないだろう、と調べてみました。
80年代に入ってみつけたのは石立鉄男主演の『天まであがれ!』。1982年のパート1が脱サラして喫茶店兼スナック店主なった主人公が甥と姪(甥は坂上忍)をひきとるという『パパと呼ばないで』路線。ちなみに主題歌は出演していた嶋大輔の「男の勲章」。翌年の『天まであがれ!2』は警官に変わっています。
しかし80年代前半ではまだ誤差の範囲という気がする。もっと新しいのはないか、探して90年代にみつけました。NHKドラマ新銀河『この指とまれ!!』。藤山直美主演で95年のパート1は小学校教師、97年のパート2は医師。共通する主要キャストは桂枝雀、岸部一徳、國村隼。國村隼はこの2作の間に『ふたりっ子』でブレイクし、映画『萌の朱雀』で評価を高めたためか、パート1の児童の父からパート2ではヒロイン夫とポジションアップ。
藤山直美主演の朝ドラ『芋たこなんきん』では國村隼が再び夫役、祖父役に岸部一徳と、亡くなった桂枝雀を除きまた顔をそろえることになります。
こういうパターンのドラマは昔風の劇団興行という感じがします。同じようなメンバーでちょっと違う演目をするという点で。それに対して、最近は同じ設定のまま続編を何作も続けていくのが主流で、それはロングランを続ける劇団四季みたいなものでしょうか。
沢尻エリカ代役のポイントは「期待の割には」
沢尻エリカが麻薬取締法違反で逮捕され、大河ドラマ『麒麟が来る』の主要キャスト・濃姫役を降板。注目の代役は川口春奈となりました。
個人的には「事務所からプッシュされているけど期待の割には売れていない」女優になるだろうと予想していました。というのも、制作側の希望する女優にもオファーはするだろうけど、受けてくれる可能性は低いし、時間的制約があるのでそう何人に聞くわけにもいかない。そうなると、各事務所が「うちの何某が空いてます」と売り込んでくるだろうから、その中から選ぶのが手っ取り早い、と考えたからです。
川口春奈はリハウスガール出身で唐沢寿明・山口智子夫妻を筆頭に竹野内豊、反町隆史などを擁する大手芸能事務所の研音に所属。『桜蘭高校ホスト部』で連ドラ&映画初主演、山田涼介版『金田一少年の事件簿』のヒロインと順調にステップアップ。しかし2013年のゴールデンタイム連ドラ初主演の『夫のカノジョ』が低視聴率に終わり、これでネガティブなイメージがついてしまいました。
研音って「早いうちに主演を経験させて大きく育てる」という方針らしいんですが、ドラマが高視聴率をとれていた時代はよくても、近年はむずかしい。一歩間違うと『夫のカノジョ』のように大コケしてしまいます。
最近では杉咲花が『花のち晴れ』『ハケン占い師アタル』をこなして、2020年秋からの朝ドラ『おちょやん』につなげています。次は現在、深夜ドラマ『新米姉妹のふたりごはん』主演中の大友花恋と1月からのテレビ東京深夜『ゆるキャン△』主演が決まった福原遥。うまく乗り越えられるでしょうか。
それはともかく「事務所からプッシュされているけど期待の割には売れていない」女優になるのは予想できていましたが、事務所別にだれをおしてくるのか予想していく中で、研音からだと成海璃子じゃないかと思っていたので、そっちはハズレ。
成海璃子、デビューは『TRICK』仲間由紀恵が演じるヒロイン・山田奈緒子の少女時代。その後、研音入りして2005年の『瑠璃の島』で連ドラ初主演。しかし人気コミック原作で櫻井翔・蒼井優の映画版がヒットした『ハチミツとクローバー』の連ドラ主演をするものの低視聴率に終わり、こちらも事務所の期待ほどには売れていません。
ただNHK土曜時代劇『咲くやこの花』で主演、大河ドラマも『平清盛』で主要人物の平滋子を演じ、時代劇経験があります。また昨年の『昭和元禄落語心中』のヒロイン・小夏もよかった。
最後に、こういう話題で思い出すのは野村宏伸。製作発表前での主役交代はニュースにはなりませんが、そこそこあります。そんなときにプロデューサにすばやく電話をかけてきたのが野村宏伸のマネージャー「うちの野村、空いてます」。それで決まった作品もあると聞いたことがあります。
野村宏伸が天狗になってた時は「オレをもっと売れよ、それがマネージメントだろ!」といっていたということですが、それを聞いて「いやいや、知らないところで仕事してたよ」と思っていました。
脚本家とスタッフとの対立は『鳩子の海』でもあった
2020年春からの朝ドラ『エール』、脚本は当初発表では『コード・ブルー』などの林宏司でしたが、降板することが発表になりました。
他の記事では「演出担当スタッフとの対立」と書かれているものが多いのですが、リンク先の記事では『サラリーマンNEO』『あまちゃん』などの吉田照幸を名指し。10月に放送された近作『八つ墓村』にも共同脚本に名前を連ねていて、脚本を書けるのはまちがいありません。
ただ、人当たりがよくて対立するような人ではない、という別の報道もあります。
こういう場合の責任はプロデューサのトップに求めるべきでしょう。その土屋勝裕制作統括、過去に大河ドラマ『花燃ゆ』も担当していました。『花燃ゆ』の脚本は1月スタート時点では『凪のお暇』の大島里美と『アシガール』の宮村優子との二人体制。5月から『中学聖日記』の金子ありさが加わり三人体制になって、9月以降は『天地人』の小松江里子が一人で書くととっかえひっかえ。最終的に4人が書くことになりこれは大河ドラマ史上最多です。
脚本家とNHK制作スタッフとの対立というと1974年『勝海舟』の倉本聰降板が有名です。もう一件、あまり知られていませんが、同じ年の朝ドラ『鳩子の海』でも起きていました。
脚本の林秀彦の著書「おテレビ様と日本人」によると、少女時代の原爆に対して結婚相手は東海村原子力研究所勤務、60年代安保も盛り込むなど反戦色が強く、また朝ドラヒロイン史上初の離婚などの内容に関して、激しく対立し降ろされそうになったとのこと。
『鳩子の海』、斉藤こず恵が演じた少女時代は有名ですが、大人になってからについて語る人はあまりいません。こういう裏があったんですね。
http://blog.zige.jp/mackiee-drums/theme/17731.html
この件に関して、NHK側から書いているのは当時のドラマ担当部長・川口幹夫著「主役脇役湧かせ役」。
「この倉本さんの事件に端を発して『鳩子の海』の林秀彦さん、後述するが、制作側にかねてから厳しい批判をされてきた高橋玄洋さんなど、作者の側からのNHKへの抗議が相い継いだ」とあります。
ここからNHKドラマは脚本家をレスペクトする方向に変わり、土曜ドラマで山田太一シリーズ『男たちの旅路』や向田邦子シリーズ『阿修羅のごとく』といった脚本家の名前が冠されたドラマが放送されるに至りました。今回の件も、改善されるように動けばいいのですが。
『俺の話は長い』は山田太一ドラマを意識しているのか
日本テレビ系『俺の話は長い』。30分×2の構成がめずらしい、というウリでしたが、そんなめずらしい?と思っていました。
プライムタイムの連ドラとして1回に複数話あるのは2003年『動物のお医者さん』という前例があります。深夜ドラマではよくあり、最近ではNHK『聖 おにいさん』。日本テレビだとくりぃむ上田主演の『天才バカボン』とか。
しかしよく考えると、これらはどれもコミック原作。一話完結作品をドラマ化する場合、一回複数話構成にする方がやりやすいということでしょうね。『俺の話は長い』は原作なしのオリジナル、めずらしいといっていいでしょう。
さて『俺の話は長い』、生田斗真演じる主人公が「ヘリクツを駆使するニート」ということで、なんかウザそうで、あまり見たいような雰囲気ではありませんでした。しかし実際見てみると、最もヘリクツが爆発するのは姉(小池栄子)との口げんかですが、ほどほどのところで終わってそこまでウザくはありません。
それに「ヘリクツを駆使する」は家族が会話をするのが嘘くさくなくなり、「ニート」は主に家の中でドラマが進行するのに便利です。現代においてホームドラマを無理なく展開するために考えられた設定だったんだと納得。
そしてみているうちに山田太一脚本ドラマを思い出しました。
例えば『男たちの旅路』の吉岡司令補(鶴田浩二)。警備会社を舞台に戦中世代と水谷豊、桃井かおりが演じた戦後世代が毎回対立します。
例えば『早春スケッチブック』の沢田竜彦(山崎努)。平凡を嫌う無頼のカメラマンで、「お前ら骨の髄までありきたりだ」と言い放ちます。
そんな常識とは違う考えを持つ、ウザいキャラクターを配置することで普通の考え方を疑い、問題を考えていく、というのが山田太一ドラマのよくあるパターンでした。
そういえば『俺の話は長い』の主人公の名前は岸辺満、山田太一ホームドラマの代表作『岸辺のアルバム』を意識してのネーミングじゃないでしょうか。『岸辺のアルバム』といえば多摩川堤防決壊、『俺の話は長い』初回放送日は台風19号上陸と重なりました。
ところで今夏公開の『天気の子』。「世界を変えた」結末に賛否両論ありましたが、最後まで見て頭に浮かんだのは『男たちの旅路』で最も有名なエピソード「車輪の一歩」。バリアフリーという言葉もない時代、外へ出ることをためらう脊髄損傷の青年に対しての吉岡司令補の「迷惑をかけてもいいじゃないか」を思い出しました。個人と社会の関係を考える上で味わい深い言葉です。