ドラマ・クロカイブ

AllAboutドラマガイドが書ききれなかったことをつづります。

大草原の小さな家とソラとローラと十津川警部

なつぞら』の中盤、『神をつかんだ少年クリフ』を制作しているあたりで「このペースで行くと最後に制作するのは『ハイジ』がモデルで、牧場で育った奥原なつを重ね合わせた作品か」と予想できました、
アニメ化されてない適当な原作はあるか考えてみたけど思いつかず。蓋を開けてみると原作は有名な海外ドラマ版がBSプレミアムで絶賛再放送中の『大草原の小さな家』。

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ちょっと待てよ、『大草原の小さな家』は『草原の少女ローラ』としてアニメ化、それも日本アニメーションの制作だけどいいのか?と思ったけど、フジ系の世界名作劇場のラインでなくTBS系だからかまわないということか。
『ハイジ』が1974年で『ローラ』が1975年10月スタート。「『ハイジ』みたいな作品がほしい」というリクエストがあって『ローラ』が制作されたと想像できるので、そういう意味でも『大草原の少女ソラ』に近い。
ちなみに『大草原の小さな家』はアメリカで放送されたのは1974年、日本では1975年7月から。アメリカでヒットしたのが伝わって、NHKでも放送するという情報から企画されたんでしょうか。

なつぞら』劇中アニメの『ソラ』を見ていると、新天地を目指した理由が洪水。これを見てふと思い出したのが『新十津川物語』。明治22年和歌山県十津川村を襲った水害のため、住民が北海道に集団移住しできたのが現在の新十津川町。その開拓史をもとにした川村たかし作の児童小説で1977〜1988年にかけて10作書かれた大作。タイミング的に『大草原の小さな家』にインスパイアされたんでしょうか。『大草原の小さな家』は洪水で始まったわけではありませんが全体の内容として。

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さらにそれをNHKが1991〜1992年に90分×6話でドラマ化。主演は現代パートと明治編・斉藤由貴、大正編・若村麻由美、昭和編・富田靖子と力が入った作品でした。ただ、当時はNHKドラマ低迷期だったため盛り上がらなかった印象があります。
1991年のヒットドラマというと『東京ラブストーリー』と『101回目のプロポーズ』でNHK的なドラマは流行らなかった。それにNHK内部も政治記者出身でNHKをCNNみたいにしようとしていた報道重視の島桂次15代会長から紅白歌合戦を国民的番組に育て、管理職としてはドラマ部担当部長だった芸能畑の川口幹夫16代会長に変わった年でごたついていたということもありました。
あまりない、北海道開拓を真正面から扱ったドラマだけに残念でした。

ちなみに「十津川警部」は十津川村でも新十津川町でもなく東京の新興住宅地の出身。西村京太郎が十津川村の地名を地図でみつけて気に入ったそうです。

朝ドラの歴史:まとめ

「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」という本があります。著者は朝ドラの戦略を聞くべくNHKを取材するが、朝ドラ専門の部署がないことにビックリします(この間まではドラマ番組部はあったけど、2019年6月の組織改編でそれもなくなった)。

 

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長期戦略を考えているわけではないけど、個別の作品担当者が考えてつくっていくと、社会の動きや過去のヒット作に影響されながら、大きな流れができているのがおもしろいところ。
そんな流れを一通り見てきたところで、全体をまとめてみます。

 

最初期は家族をテーマにした作品が3作。4作目『うず潮』(1964)が新人女優主演、女の一代記パターンのプロトタイプ。それを踏襲した『おはなはん』(1966)が大ヒットするも、それで一代記パターンが定着するかというとそうでもない。続く『旅路』(1967)は夫婦ものでこちらも大ヒット、まだまだ模索が続きます。

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『あしたこそ』(1968)からカラー化。連続テレビ小説歴代視聴率ランキングは1位はもちろん『おしん』として2位『繭子ひとり』(1971)、3位『愛より青く』(1972)、4位『鳩子の海』(1974)、5位『北の家族』(1973)とこの時期の作品が並ぶ一つのピークです。

 

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ヒット続きの裏では制作がたいへんになったため半年放送スタイルに。
雲のじゅうたん』(1976上)は、夢が大正時代では壮大だった女性飛行士。一代記パターンに職業路線が加わり、またヒロイン真琴(浅茅陽子)は猪突猛進の超前向き性格。
一代記・職業もの・ヒロイン前向きの三要素がこの時期量産され、朝ドラの基本イメージが確立します。

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朝ドラだけでなく全連続ドラマ中最高視聴率の『おしん』(1983)。いわゆる「戦後」とバブル期へ向かう時代の変わり目だった1983年という時代が生んだのでしょうか。

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頂点を極めてしまったので変わらなくてはいけない。男性主人公など試すけど決定的なものは出てきません。

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時はバブル期、民放の連ドラはトレンディドラマに。時代の動きを反映して出てきたのが現代ものの『青春家族』(1989)。しかし反動的な流れもありなかなか変われず、視聴率も大きく低下してしまいました。

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1996年『ひまわり』『ふたりっ子』の連続ヒットでようやく現代路線が定着。さらに『ふたりっ子』は離婚、2000年の『私の青空』シングルマザーと『オードリー』はアラフィフまで独身のままと「一人で生きていく」ヒロインが主流になるかと思われました。

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しかし『ちゅらさん』(2001)でやっぱり家族が大事だともとに戻る。『ちゅらさん』は朝ドラヒロインのパターンを自覚するなど大きな転換点になりました。
その引き換えとして現代の女性の問題から離れていく傾向が。

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長期低落傾向をなんとかしようとする動きが始まりました。すぐには効果はないものの『ちりとてちん』はその後に影響を与える作品でした。

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本放送開始時間を8時に変更するとともにテコ入れしついにV字回復。現在に至ります。

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朝ドラ2010〜:V字回復した理由は開始時間変更だけじゃない

四半世紀近く視聴率の長期低落が続き、2008年10月に「朝ドラのあり方を見直す」と発表があり、2010年1月にその結果が発表されました。「NHK総合本放送開始時間を8時15分から8時に繰り上げる」と。「主婦が家事をしている時間帯など、いくつかのデータを基に放送時間を決めた」とのこと。

 

当時は1年ぐらい検討してそれだけ?と個人的に思いましたが、それだけではなかった。

まず時間変更を広めるための告知する必要があり、NHKの番組中だけでなく雑誌、ネットや民放のワイドショーでも取り上げられることが多くなりました。そのためにプロモーションの予算は増えているでしょう。

さらに主演を新人ではなく実績のある俳優であることが多くなり、また時代設定が現代よりも明治・大正・昭和の戦争前後が増えました。2つとも制作費が上がる原因になるので、たぶんその予算も上がっているでしょう。

ドラマの内容もレベルが上って、朝ドラ史上屈指の名作が争うようにでてきます。

 

V字回復の原因はそういったことが複合してですが、なかでも大きかったのは一代記パターンを基本にしたことでしょう。東日本大震災をはじめ大災害相次ぐ現代を、関東大震災や太平洋戦争の形を借りて描くことができました。

 

このあたりのことは記憶にあたらしく、歴史というにはまだ現在進行形。2010年以降最高視聴率で100作記念視聴者人気投票一位の『あさが来た』でとりあえず終わって、これ以降はまた次の転換期が来てからにしましょう。

 

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朝ドラ2006〜2009:長期低落傾向脱出へ種まき

2006年はNHK放送開始70周年だからか長期低落を続ける朝ドラをなんとかしようということなのか例年とちょっと違う。東京制作の上期『純情きらり』と大阪制作の下期『芋たこなんきん』を二作同時発表。

どちらもひさびさに主演オーディションでない起用で、放送開始時20歳ながら映画出演多数で将来を期待されていた宮崎あおいと、実績十分で当時のNHK大阪としては最後の切り札的存在だった藤山直美

さらに1999年の『すずらん』以来の太平洋戦争を含む時代背景。

 

純情きらり』は期待通りにヒットしましたが、『芋たこなんきん』は内容は評価されたおものの視聴率的にはイマイチ。朝ドラヒロインとしては年齢が高すぎることと、大人になったヒロインが折に触れて少女時代や女学生時代を回想する構成がなじみにくかったのでしょうか。

 

翌年も上期東京制作と下期大阪制作は似たような傾向で、ベタな『どんど晴れ』は視聴率がよかったけど、『ちりとてちん』は内容の評価は高くDVDは売れたものの視聴率は伸び悩み。よく見てないとおもしろさがわからず時計代わりに見にくいのが原因。見返すことができるNHKオンデマンドはサービス開始前、みんなで共有できるSNSの普及もまだでした。

 

ただ『ちりとてちん』、その後の朝ドラへの影響は大きいものがあります。

過去と現在が複雑にからみあう構成は『あまちゃん』。「研いで出てくるのは塗り重ねたもんだけ」など、落語・若狭塗箸という職業とテーマが響きあうのは『カーネーション』『ごちそうさん』。

ちゅらさん』のヒロインパターンの自覚化をうけてこれまでの前向きなヒロインをひっくり返したネガティブキャラは『ゲゲゲの女房』『あまちゃん』など。

最終的には落語家ではなく落語家のおかみさんになりたいとなり、人を支えるヒロインは『ゲゲゲの女房』『ごちそうさん』『マッサン』など。

ちりとてちん』がなければ、2010年以降の朝ドラ復活もうまくいったかどうか、という重要な作品です。

 

この時期、勢いがよかったのはここまで。以後2年4作で長期低落傾向も極まり、ついに朝ドラのあり方が見直されます。

 

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朝ドラ2001〜2005:パターンを自覚してそれを極める

21世紀に入っての第一作は『ちゅらさん』。大人気で続編が三作もつくられましたが後の作品へ与えた影響も大きい。

 

まずは家族観。離婚の『ふたりっ子』、シングルマザーの『わたしの青空』、アラフィフに至る最終回まで独身の『オードリー』と新しい家族の形を追い求めた20世紀末。それに対して『ちゅらさん』は、沖縄の実家はおばあ(平良とみ)のいる大家族、上京しても擬似大家族の一風館。「やっぱり家族っていいよね」となり、この後、生涯独身は『とと姉ちゃん』、離婚は『半分、青い』ぐらいで、ほとんどありません。

 

朝ドラのヒロインのパターンについて自覚的になったのも『ちゅらさん』から。明るく前向きが基本の朝ドラヒロインですが、「運命」だと結婚に突き進むなど、古波蔵恵利(国仲涼子)は脳天気レベル。それに対して「そんな奴おらへんやろ」的ツッコミをいれる城ノ内真理亜(菅野美穂)は、twitterでつぶやく視聴者を先取り。

パターンに自覚的になったことでこの後、木に登りがちな朝ドラヒロインの中でも「山猿」といわれるほど木登り得意な『ほんまもん』、ハワイの日系三世アメリカ人『さくら』、夢が女性宇宙飛行士と朝ドラ史上最も壮大な『まんてん』と極端なタイプが次々に登場します。

 

さらに初めて沖縄が舞台となったことで、いままで取り上げてこなかった県が舞台になることが増加。『さくら』は初の岐阜県(とハワイ)、『まんてん』の鹿児島県は『おはなはん』と『マー姉ちゃん』でヒロインの夫の出身地として登場したことはあるけど、ヒロインの出身地としては初、『ファイト』が初群馬、『風のハルカ』が初大分。このあたりのことは以前まとめました。

 

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ちゅらさん』からの好調は『さくら』まで続きますが、その後息切れ。ほとんどが現代もので、大きな苦難というと『わかば』で父親が阪神大震災で死んだことぐらい。ヒロインの自分探しパターンが増えていったのがいけなかったか。。

またひとりで生きていくヒロインがいなくなり、現代の女性の問題も描けなくなっていきます。

 

異色なのは、戦後スタートで時代が古い『てるてる家族』。石原さとみ演じるヒロインだけじゃなく、母親(浅野ゆう子)と三人の姉(紺野まひる上原多香子上野樹里)まで含めた5人ヒロインという感じのストーリーにミュージカル仕立ての構成。おもしろかったけど、朝ドラとしては異色すぎたのか視聴率的には盛り上がりませんでした。

 

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朝ドラ1996〜2000:現代的要素を取り入れて方向転換完了

『青春家族』で現代路線の方向性が出ながら、なかなか変われなかった朝ドラ。ようやく方向転換できたのは1996年『ひまわり』『ふたりっ子』の連続ヒットから。

 

要因は脚本家の若返り。これまではベテランから中堅どころが担当していました。しかし上期『ひまわり』の脚本、井上由美子は放送当時34才。朝ドラを担当した脚本家としてはその時点でたぶん一番若い(その後『こころ』の梅田みかが32才で更新、ただし生年が確認できない人もいるのであくまでたぶん)。実績としてもNHK大阪制作、藤山直美主演の『この指とまれ』やBSサスペンス『天上の青』『照柿』など評価されていましたが、一般的にはあまり知られていませんでした。

下期『ふたりっ子』の脚本は大石静。『長男の嫁』など民放で活躍していましたが、NHKは初めて。実績重視のNHKが最初から朝ドラをまかせるというのは当時としてはめずらしい。

脚本家が若返るということは、いっしょに仕事をするスタッフも若返っているはず、そうじゃないとコミュニケーションがうまくいかない。

 

『ひまわり』は『青春家族』『ひらり』からくる現代路線を職業ものとして完成させてこの後のスタンダードになったような印象。それに2週間を1エピソードとしてサブタイトルをつけるのは初めて(1週間単位になったのは『あぐり』から)。全13エピソードで民放の連ドラが10回前後なのに合わせる意図がありました。

 

ふたりっ子』は三倉茉奈・佳奈人気が火付け役になり大ヒット。この後しばらく、最初は子役から入るパターンが多用されます。妹・香子(岩崎ひろみ)は猪突猛進型で朝ドラヒロインの一つの定形ですが、姉・麗子(菊池麻衣子)を上昇志向な悪女にしたのはダブルヒロインのうまい使い方。

 

また以前は時代の大きな苦難というと関東大震災と太平洋戦争でしたが、この時期の大阪制作では、バブル崩壊阪神大震災になっています。『ふたりっ子豆腐屋、『甘辛しゃん』日本酒、『やんちゃくれ』造船、『あすか』和菓子、『オードリー』時代劇と当時の斜陽産業が舞台で不況の影響も深刻。東京一極集中化の影響でしょうか。

 

また『ふたりっ子』は離婚、『私の青空』はシングルマザー、『オードリー』はアラフィフとなる最終回まで独身のままと大石静内館牧子脚本作品でひとりで生きるヒロインが登場するのも時代でしょうか。

 

ともあれこの時期、戦前からの一代記パターンは『あぐり』と『すずらん』だけで現代路線が定着。視聴率低下に歯止めは打てました。ただしそれ以前の30%超の数字はもどってきません。

朝ドラ1989〜1995:変わる方向性は出ているがなかなか変われない

988年の『ノンちゃんの夢』『純ちゃんの応援歌』で時代設定を新しくしてきましたが、ストーリー展開としては昔ながら。

現代的になったのは翌1989年、平成第一作の『青春家族』から。キャリアウーマンで不倫を疑われたりする母(いしだあゆみ)と結婚式を当日キャンセルしマンガ家をめざす娘(清水美砂)のダブルヒロイン。これまでガンコだが頼れる父親が定番でしたが、単身赴任し夫婦関係に悩む父(橋爪功)も現代的。

 

バブル景気を背景に1988年の『君の瞳をタイホする!』と『抱きしめたい!』から民放ドラマはいわゆるトレンディドラマが席巻するようになっていました。これにより家族で見るものだった連続ドラマは女性を中心に若者が見る作品が主流になり、中高年層は2時間サスペンスに、と分化。

朝ドラもその流れへの対応が必要でした。

 

この線で朝ドラもこのまま現代的になるのかと思ったら、そう簡単にはいかない。東京制作だと翌年は大正が舞台で男性主人公の『凛凛と』。その次は太平洋戦争の末期から始まる『君の名は』と古典的パターンを連発。

『凛凛と』は放送開始65周年記念作で主人公のモデルはテレビジョン開発者。『君の名は』は連続テレビ小説30周年記念作というシバリがあり、現代を舞台にはできなかったのでしょう。『青春家族』があまりに進みすぎていて、反動もあったのかもしれません。

 

記念作とかの影響がない大阪制作の方が『京、ふたり』『おんなは度胸』とダブルヒロインパターンも取り入れつつ漸進的に路線を新しくしていって好評。

『ひらり』がようやく『青春家族』の路線を受け継いでいます。オープニングテーマをインストから歌詞つき主題歌にしたのは『ロマンス』が最初ですが、Jポップ(ドリームズ・カム・トゥルー)を使ってきたのも現在につながるパターンの最初。

 

『ぴあの』と放送開始70周年作『春よ、来い』は内容的に疑問。さらに『春よ、来い』の放送中に阪神大震災オウム真理教事件と大事件が相次いで発生。その後の『走らんか!』は鬼門の男性主人公、とこのあたりで激しく視聴率を落としてしまいます。

 

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平均視聴率